ネット子インタビュー

フィンランドから1年間の予定で帝京高校に留学しているエヴリナ・フォースさん(16歳)に、フィンランドの教育・インターネット事情についてインタビューしました。フィンランド語・スウェーデン語・英語が堪能で、現在日本語を勉強中のエヴリナさんへのインタビューは、英語で行いました。
(インタビュー実施日:2008年11月21日、実施者:ネット社会と子どもたち協議会運営委員 佐藤綾子)。


●あなたの出身地は?

フィンランドの首都ヘルシンキから北方500キロ、ボスニア湾に近いイリヴィエスカという、人口13,000人の町。


●フィンランドと日本の"家族"構成は?

フィンランドでは母、義理の父、義理の妹(11歳)と住んでいる。年の離れた姉2人はすでに独立して家を出ている。日本のホストファミリーは、"両親"と30歳の"兄"。その上にもうひとりいる"兄"は現在、シカゴに住んでいる。3人とも英語はできるが、私には努めて日本語で話してくれている。日本の"母"も仕事を持っていて、私が学校から帰るのと同じころに帰って来る。帰宅後、母を手伝って料理をすることもある。フィンランドでもお米はよく食べていたので、お米の調理はできる。

"父"と"兄"は、どちらも仕事が忙しく帰宅が遅い。"兄"はコンピュータやxBOX, プレステなどゲーム機を多数所有していて、帰宅後や休日は部屋でよくゲームなどをしている。


● フィンランドと日本の"通学手段は?

フィンランドでは自転車通学をしていた。学校までは自転車で5分。冬の間、雪が降っていても自転車で通学する。自転車には小さい頃から乗っているので慣れている。日本ではは1時間かけて電車通学している。来日して3ヶ月、もう満員電車にも慣れた。


●フィンランドの学校や教育について

フィンランドの子どもはクラブ(保育園に相当)、幼稚園、プレスクール(小学校入学準備のための1年コース)などを経て、6歳で小学校に入学する。両親ともに働いている家庭が多いので、子どもも小さいときから上記の施設いずれかに通う。  

外国語教育が重視されていて、小学校になるとスウェーデン語と英語を学ぶ。英語は通常小学3年生からだが、私は1年生の時にスウェーデン語と英語、2年の時はスウェーデン語のみ、3年生から両方を学んだ。フィンランド語は、同じアルファベットは使うものの、隣国のスウェーデン語、あるいは英語とは言語構造がまったく異なり、一番似ているのはエストニア語である。だいたい1週間に5-6時間の外国語の授業があった。小学校は基本と文法中心で、リスニングやスピーキングは高校生になってから本格的に学ぶ。テレビでも、テレビでアメリカやイギリス(アメリカの方が多いが)の番組を多く放送しているので、それを見ている間に英語が自然に身についた。義務教育は中学校までで、その後は高校か職業学校に進む。私は中学校で「社会」や「理科」を学んだが、最近、私の母校ではカリキュラムが変わって、哲学、心理学、物理、化学を中学から科目として教えているらしい。フィンランドに"塾"はない。  

高校は日本のようなクラス(1つの教室ですべての授業を受ける)はなく、単位制(生徒が教科ごとに教室を移動する)で、3年間に75単位を取り、卒業認定試験に合格すると、卒業資格が得られる。音楽ではピアノ、体育ではハイキング、スキーやスケート(私はあまり好きではなかったが)、スノーボードなどの実技がある。 小学校から高校まで、給食は無料である。フィンランドは穀物や乳製品の自給率はほぼ100%で、米や果物などはEU加盟国などから輸入している(食事は高カロリーで、糖尿病患者が多い)。  

大学はすべて国立で、学費は無料である。遠方の大学に通う場合、生活費も一部支給される。


● なぜ、日本に来ることに決めたのか?

よくあるケースのように、日本のアニメやマンガが好きだったからというわけではない。ただし、ポケモンはフィンランドでも人気で、一時はキャラクターをすべて暗記していた。また、叔母が中国に住んでいたことがあり、よく話を聞いていたので、アジアは身近な存在だった。これまでに、マルタ、ドバイ、トルコ、中国など20カ国以上を旅行したが、今まで行ったことのあるヨーロッパや英語圏には留学したくなかった。また英語はすでにできるので、新しい言語を学びたかった。留学先の候補は、ブラジル、コスタリカ、エクアドルなどの南米諸国、あるいは中国か日本で、「南米よりアジアの方がいいのでは?」という母のアドバイスもあって、日本に決めた(どこにしようか悩んでいるときに、国名を全部書いたカードを作り、裏返して1枚だけ選んでみたりしたが、その際にも「日本」が出てくることが多かった)。


● フィンランドというとノキアに代表されるハイテク機器で有名だが、コンピュータはいつ、どのように使い始めたか?

フィンランドでも日本はハイテクで知られている。日本に来る前の日本のイメージといえば、「メガネをかけてカメラをぶらさげている人」だった。  

コンピュータは、4-5歳から使い始めた。今、フィンランドの実家には全部で6台くらいのPCがある(妹も2台持っているが、どちらも壊してしまった)。PCは、母の仕事部屋に置いてあって、高校入学まではそこで使っていた。コンピュータに前はフィルタリングがかかっていた。長時間熱中していて、母にもうやめなさいと言われたことはあるが、特にルールはなかったし、問題やネットいじめにあったこともない。15歳のときに初めて自分のPCを持ち、今はアメリカの学生向けSNSであるFacebookに登録している。  インターネットをする目的は、主に外国人の友人が欲しかったから。フィンランドにいるときには、中国、オーストラリア、アフリカなどの若者とメールのやりとりしていた。今は交流も途絶えてしまって、南アフリカの子とたまにやりとりするぐらい。これらの"メル友"とは直接会ったことはない。危険な目にあったことはなく、コミュニケーションはとても楽かった。メールを英語で書いてやりとりすることにより、英語も上達した。


● 周りで、インターネット利用によるトラブルや問題は何かあったか、聞いたことがあるか? 

特に聞いたことはない。


● 携帯電話はいつから使っている?  

ノキアの携帯電話を10歳のときから持っている。電話・テキストメッセージ・ゲーム・ロゴや音楽のダウンロードなどに使ってきた。最初の機種は3310で、とにかく頑丈だった(本当に壊れないか、たたいてみていた男子生徒がいた<注:これを聞いて、以前に日本に「象が踏んでもこわれない」筆箱というのがあり、男子たちが何とか壊そうと踏んでいたのを思い出しました>。私が携帯電話を持ち始めたのはクラスの中でも早いほうだったが、1年たたないうちにほとんどの生徒が持つようになった。  

中学卒業までは、1ヶ月に使える金額の上限が、母によって20ユーロ(数年前のレートである1ユーロ=140円程度とすると、約2800円)に設定されていた。この金額は、着メロや待ち受けロゴなどをダウンロードして、テキストメッセージを何度もやりとりすると、だいたい1週間で使い切ってしまった。使い切ってしまうと次の月までは、ゲーム(よくやっていたのはSnake II)や緊急連絡しかできなかった。それ以外は、携帯電話で困ったことやトラブルは経験していない。  

高校入学後は金額制限もなくなり、自分の使えるお金の範囲でやりくりするようになった。フィンランドでは高校生になると大人扱いされ、自分で自分をコントロールすることが当然とみなされる。大学入学と同時に家を出る場合が多いからだ。また18歳になると男子には兵役が課せられるのも1つの理由だろう。徴兵期間は6ヶ月から1年間で、兵役の代わりに社会奉仕(ボランティア)活動を選ぶこともできるが、両方を拒否すると罰せられる。この徴兵制度はフィンランドでも論議をよんでいる。 <人口が少なく、高齢化も進んでいるので、子どもには早く「大人になって戦略」となることが、期待されているようです>


● 日本に来てからも携帯電話は使っている?

今はノキア(N73:日本でも使用可能)と、auの2台の携帯電話を持っている。まだ日本語があまり読めないので、auの操作方法は少しずつ覚えているところだ。


● フィンランドと日本のちがいは?

どちらもハイテク国。日本は人も多いし、電車も混んでいるけれどそれにも慣れた。日本の方が、人も言語もとても丁寧(polite)だ。学校制度はもちろんちがうし、日本の方が規則も多いし、制服もあったりするが、特に抵抗はない。柔軟性というか、フレキシブルであることは、これからの国際社会で生きていくのに重要だと思う。留学期間は1年間だけなので、その間にできるだけいろいろな経験をしたい。


● 将来の希望や予定は?

将来、どのような仕事に就きたいかはまだわからないが、まずは大学に進学して、また外国の大学に留学したり、世界各国を旅行したりしたい。フィンランドの友人のなかにも国内派と国際派がいるが、私は国際派の方だ。仲のよかった友人2人も、今アメリカとオーストラリアに留学していて、メールで連絡を取り合っている。


フィンランド一口メモ

フィンランドの人口は約520万人(北海道とほぼ同じ)。1917年に帝政ロシアから独立。資源が少なく、利用可能な国土が狭いという、日本と同じ問題を抱えているが、高い国際競争力や教育・福祉水準、ハイテク機器で知られている。1995年から教育改革に取り組み、2003年にOECDの学習到達度調査PISAで世界一になったことが、日本でも注目された。 もっと詳しいフィンランド事情は、同国在日大使館のサイトで。


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